目次


プロローグ

この物語は写真館の写真を整理する目的も兼ねて、

私達家族の思い出を“事件簿”とは別の視点で書き綴るものです。

(作者:父/監修:母)


第1章…出会い

2000年の4月、私はオープンしたての南町田グランベリーモールにあるペットショップJOKERの店内にいました。そう、かねてから飼いたかったパートナーを探すために。

オープン初日とあって店内はかなり混雑していました。ガラス越しにお目当ての子を探しましたが、お目当てのミニチュアダックスがいない。

その時、ガラスに貼られた子犬のプロフールに一頭のミニチュアダックスの写真を見つけました。

「男の子、ロングのゴールドか。3月9日生まれということは生後45日くらいか。でも、本人が見当たらないな。写真が可愛くないし却下かな。」

ちょっと当て外れといった感じでしたが、店員さんにお話を伺いました。

「ロングでレッドの女の子を探しているのですが。ちなみにクリームだと探すの大変ですかね?」

「クリームやゴールドの場合探すのに時間がかかりますね。レッドなら直ぐ見つかると思いますよ。

 お探ししましょうか?」「明日、家内とまた来ますのでその時にお願いします。」

そして、次の日。私と妻はやはり混雑した店内であの写真を見ていました。

「この子、可愛くないからだめだよね?」「ちょっとね。男の子だし。」

「それにしても、こんなに混んでいたらお目当ての子を探してもらうのも

 気が引けるね。今日はやめる?」

「そうする?でも、せっかくだからとりあえずこの写真の子に会わせてもらえば?」

そして、ものは試しと写真の子に会わせてもらうことになりました。

どうやら虫下しを飲ませたところでお腹の調子が悪く、お客さんの目の届かない所で休ませていたようです。

店員さんの手のひらに乗ってしまいそうな、とても小さな子がやって来ました。写真とは全然違う。「君、写真写りが悪いよ。」これがミックとの運命的な出会いでした。

その子は少し震えていて、落ち着きなく匂いを嗅ぎ、乗せていたテーブルから何度も落ちそうになっていました。

その仕草に私の気持ちはかなり傾いていました。妻も気に入っている様子でしたが、何せパートナー探はこれが始めてだし、本当にこの子でいいのだろうかという迷いも

ありました。しかし、それに勝るものもあったのは事実です。

「どうする?この子に決めちゃう?」と妻の顔色を伺う私。「いいっちゃいいけど。」「でも、まだ探し始めて1頭目だし、もう少し探そうか?」「いいっちゃいいんだけどね。」「だって男の子だし。」「いいっちゃいいけど。」

やはり、実際に子犬を目の前にすると弱い夫婦なのでした。こうして、"いいっちゃいいけど君"(仮名)は我が家の一員になることになったのです。

 


第2章…僕の名前は“ミック”


いいっちゃいい君はお腹の調子が悪かったため、体調が良くなってから家に連れて

来ることとなりました。

その待ち遠しい期間は彼の名前を考えることで時間を潰しました。

実は女の子を飼うつもりで、名前は"姫"と決めていました。それが、男の子を飼うことになった訳です。"ピュア"、"ウイル"、"マジック"、"ウォルト"などなど。音の響きも大切ですが、私はちゃんと意味のある名前を付けたいと思っていました。

「じゃあ、3月9日生まれだからミックというのはどう?」と妻。

「それじゃ、ミック・ジャガーみたいじゃん。」と言ったものの意味があり、呼び易く、

時間切れと言うことで、彼の名前が決定したのでした。

いいっちゃいい君改め、ミックはお腹の具合が良くならず、引渡し予定日は何回か

延期になり、その度に、“ひょっとして、体が弱い子なのかもしれない”と私達は不安に

なっていきました。

彼が我が家に来る日の朝、私はその喜びを抑えるのに精一杯でした。また、子犬を

迎えるにあたり、本で勉強したことを何度も頭の中で復習していました。

妻の方はわりと落ち着いていて、スターバックスでコーヒーを楽しんでいました。

思えば私達は犬好きで、フジテレビの“きょうのわんこ”を出勤前に見たり、

“いぬたま”や“那須動物王国”などの犬のテーマパークを見つけては遊びに行ってました。

そして、家を手に入れたら絶対犬を飼うと決めていたのです。

ところが、家を手に入れたものの、“"犬を飼うということはその犬の一生について責任を持つ”

という責任の重さへの戸惑いから、しばらく決心できずにいたのです。

そんな気持ちも本やインターネット、身近で犬を飼っている人の情報で、犬を飼う上で

の疑問が解けていくに従い無くなって行きました。

「本当に犬を飼うんだよね。」とコーヒーを飲んでいた妻の一言に実感が沸きました。"本当に責任を持ってミックを育てなきゃ。"と私には聞こえました。

そして、JOKERにて1時間位の説明(私の質問が多いので予定時間をかなりオーバー)の後、長年夢に見た瞬間がやって来ました。ぎこちなく抱かれた私の腕の中で、彼は落ち着かない様子。私達と一緒に会員証の写真を撮り終え、彼はおもちゃのボールと一緒に箱に入れられました。

家に着くまで、車の中では不安そうな鳴き声をあげてました。もう、可哀想なくらい。

初めて会う人に何処かに連れて行かれる訳だから、相当不安だったのでしょう。

我が家に着き、早速サークルを組み立て、休ませることにしました。

私達も、結構疲れたので、リビングのサークルに彼を残し、寝室で昼寝を始めたのですが、しばらくすると凄い勢いで鳴き出しました。こんな時、相手にすると癖になると本に書いてあったので心苦しくも放っておきました。

それが良かったのか、あきらめの早い性格のせいか、夜鳴きらしいものは、後にも先にも、この時だけです。

この点は自慢できると思います。

こうして、ミックと私達の生活が始まったのです。

 


第3章…父母大奮闘


我が家は共働きです。これが犬を飼う上で大きな心配事となっていました。ちゃんと一人でお留守番できるだろうか?

寂しい思いをさせてしまうのでは?そこで、せめて我が家に来てから数日は一緒にいてやりたいと思っていました。

運良く引取の日がゴールデンウイーク初日となり、5日間一緒にいられることになりました。

元々、これを狙ってパートナー選びの時期を考えていたということもありますが。

(どう、計画的でしょ!(^o^))

朝、昼、夜の元気、食欲、便、体重や気づいたことをチェック表に毎日付ける様に

しました。子犬の頃は食事は3回。昼は母の仕事が終わった時間で大丈夫でした。今、見返してみると、"くしゃみや鼻水あり"とか"お腹が鳴る"とか心配しているのが笑えます。でも、元気の項目は何時も○で、2週間のチェックで△は2回だけ。体重は初日は1.0kgですよ。現在(1才3ヶ月)は約5倍。(^_^;)

食欲にはむらがあり、食べないとやはり心配でした。食事はハードタイプのパピー用のフードをお湯でふやかして与えてました。

心配していたお腹の具合が嘘のように問題無しでした。それどころか、今まででお腹を壊したことが無いんです。

私達は、犬を飼った経験が無かったので、日に日に疑問が山のように湧いていきました。

最初に、私達を悩ませたのは彼の甘え噛みでした。遊んであげると必ず指をカジカジ。

子犬の歯は尖っているのでとても痛いのです。

最初から叱っても構わないと聞いてはいましたが、性格がすねた子になってしまいそうで。

子犬の時の待遇で、一生の性格が決ってしまうと聞いていたのでなおさらです。でも、悪い事はちゃんと叱らなくていけません。

甘え噛みをしたら、口を手で握って“ノー”と一言。

でも、彼はきょとんとした顔をした後、またカジカジを始めます。

何だかやっぱり分かってない。カジカジでなくペロペロだと、自分の舌を出して教えると、指をペロペロする様になりました。

「お、分かるか!」って、感じで嬉しかったのを覚えてます。

そんな時、JOKERから様子を伺う電話がありました。

「どうですか?」

「あの、甘え噛みが酷くて」

「歯が抜け替わったらしなくなりますよ」

(本当かな?)

とりあえず、叱ることは続けましたが、今から思えばやっぱり分かってなかったと思います。(^_^;)結果的には歯が抜け替わってから何時の間にか本当にしなくなったのです。あの頃からは信じられません。本当に噛みまくってましたから。

その他、悩みは尽きませんでした。最大の悩みはやっぱりトイレでしょう!

これは次回ということで。


第4章…ミックとの一週間


3回目のワクチン注射も終わり、お散歩デビューが近くなった頃の話です。母が英語研修と称して一週間旅行に出かける間、ミックの世話を私一人ですることになりました。私にはちょっとした試練ですね。会社から夏休みを貰えることは分かっていたので、この件はミックを飼う前から了承していました。今では何の問題も無い事ですが、この時は手が焼ける子犬のミックを新米の父母が世話していた時期です。「ま、大丈夫でしょう。会社も休みだし。」と思ってました。でも…ちょっとした事件が発生したのです。

この一週間はミックとペッタリで、寝るとき以外はほとんどは一緒にいました。まだ子犬なので色々な事をしでかします。目が離せません。

犬を飼っている方ならご存知だと思いますが、ワクチンの注射後しばらくしてからでないと、子犬をお散歩に出してはいけないのです。その時期を首を長くして待っていました。

でも、その事件はお散歩デビューの時に起こったのです。

ちゃんと歩いてくれるだろうか?

犬のテーマパークでレンタルわんこした以外は、私自身も犬を連れて一般公道を歩くのは初めてだったのでちょっと緊張してその日を迎えました。リードをして、うんち袋を持って、いざ出発。「お、匂いをかぎ回っているが、歩く歩く。」「残念だね、ミックのお散歩デビューなのにお母さんいなくってサ。」なんて負け惜しみとも取れる独り言を言いながらお散歩していました。初めて見る色々な物に興味深々。道を曲がるのを嫌がり直進ばっかり。車が通るたびに近づこうとするので、リードを引っ張って私の側に戻してました。

実は、これが良く無かったのです。

子犬の肉球はとても柔らかいのです。

家に帰ってきて足を拭いていると何と血が…。肉球を見てみると擦りむいて血が出ていました。「どうしよう。ペットショップ指定の獣医さんは遠いし。」「そうだ、確か近くに獣医さんがあったっけ。」新米パパは大慌てです。

こうして、訪れた獣医さんが今もお世話になっている先生です。先生曰く「大したことないですね。マキロンでも塗っておいて下さい。」大袈裟にする程でもなかったみたいで、一安心でした。でも、血が出てたので普通は慌てますよね。(^^;)

それから、初めて来院したダックスの患者さんと言うことでヘルニアについて骨格模型を使って詳しい説明を受けました。

先生はご自分のダックスがヘルニアになってから、ダックスの患者さんには必ずこの説明をして注意を促しているとのことでした。太らせてはいけない事を肝に命じました。とても気さくな先生で、いい獣医さんを近所に見つけることが出来とても嬉しかったです。怪我の功名でしょうか。

お散歩一日目にして、残念にもお散歩中止となりました。(^^;)

他にも私の昼寝中にサークルのペットシートをボロボロにして食べたりと、色々ありましたが、日々私に対するミックの認識度も上がって行ったように思います。ま、男同士の絆が出来たとでも言いますか。(^^;)旅行から帰ってきて、久しぶりに母の目から見るミックはさぞかし可愛かったことでしょう。

こうして、2000年の私の暑い夏休みは終わったのです。

会社で「どこに旅行に行ってたの?」なんて

聞かれても、「ええちょっと(^^;)」なんて言葉を濁してしまう父なのでした。犬と自宅で1週間過ごしましたとはちょっと言えなかったです。皆が犬好きなら分かってもらえると思いますが。ミックとの良い上下関係はその時出来たものと私は信じてます。(^^;)

 


第5章…犬なれ


お散歩にも出れるようになった所で、新たな課題が発生しました。

他のわんちゃんに慣れること、そう“犬なれ”です。

つうしんぼにも習得科目として設定してありますが、これを書いている3歳2ヶ月の

時点で、まだ“かんぺき”を付けるに至っていません。(^^;)

生後4週間目から2~3ヶ月目までの犬の幼年期と呼ばれるこの時期、本来なら兄弟達と

よく遊び、喧嘩をしながら犬の社会を学ぶ時期です。

しかし、ミックはそんな時期を兄弟達と迎える前に、離れ離れになっている訳です。

可愛い子犬の時期にショップに出せば商品価値も高いのでしょう。

この点については私達人間の罪を感じます。購入する側の私も同罪だと思っています。

兄弟達に代わって、そのことをミックに教える必要があります。

幸い、ミックと出会ったショップのJOKERではパピーパーティというものを開催し、

出席を推奨していました。同じ内容の催しをかかり付けの獣医さんでも開催していて、

お誘いを受けていました。

これは、子犬同士で触れ合う場を設けて、犬の社会性を学ぶ第一ステップを踏み出すと

いう趣旨のものです。

JOKERのパピーパーティでは、トレーナーさんは出席者の子犬の様子を見て、相性が良さそうな子犬の組み合わせで触れ合うように進めていました。

出席してみると、同じ犬種でも個性がはっきり違い、ミックは大人しく、少し臆病であることが分かりました。

他の子と楽しそうに追いかけっこをするグループの傍らで、ミックは他の子を避けるように会場の端で一人で遊んでいたのです。

人間は大丈夫なので、時には父母以外の人の側に避難することもありました。

この時、私達はミックの犬なれの必要性をとても強く感じたのです。

この傾向は、リベンジをかけた獣医さんのパーティでもやっぱり一緒でした。

お友達を見ていても、兄弟の中で育った子達は犬との付き合い方をとても良く理解して

いるように思えます。

お散歩などでトラブルを避けるかの如く他のワンちゃんとの接触を全て避ける方を見かけますが、これでは何時までたっても犬になれさせることは出来ません。

しかし、場合によっては接触させると危険な場合もあり、ここは飼い主さんの判断による

ところも大きく、悩みどころだと思います。

我家の場合、相手が同じ小型犬でミックに興味がありそうな場合にご挨拶をさせるようにしています。

それでも、過去にミックは2回ほど噛まれた経験があります。2回とも相手は同じ犬種であるミニチュアダックスでした。

一度怖い思いをすると、なかなか立ち直るのに時間がかかります。実際、ミックも噛まれた場所に近づくことを嫌がるようになりました。

でも、そんな時はその場所を楽しい思い出に変えてあげるのが良いようです。

その場所に行くとおやつがもらえる。大好きな徒競走が出来るなどなど。(^^;)

実は、これが科目にある“怖がり克服”です。努力のかいあって、今のミックはもう完璧に克服しました。

まだまだ課題が多い“犬なれ”ですが、他の子とのふれあいで出来るだけ多くの楽しい

思い出を作り、フレンドリーなワンコになって欲しいと思います。

時として、危険を察知することも重要かな。(^^;)

最近ではお友達も多くなり、かなり良い感じになってきています。(^^)

(つづく…)